当事業は、大規模災害発生時に避難所や病院などで不足する車いすを、被災地外の自治体や社会福祉協議会などと連携して集め、一度にまとまった数の車いすを被災地自治体まで送り届ける事前計画型の災害支援事業です。
災害時における車いすの重要性
主な避難所になる体育館や自治会館などでは、災害避難所として車いすが備え付けられている・備蓄されている事はほぼなく、長い避難所生活の上で怪我人、高齢者、妊婦などが床やパイプ椅子に座り続けなければならない状況があります。車いすは高いクッション性を有し、移動可能な事、楽な姿勢を保持できる事などから、避難所生活でも有効性が高いという事が知られています。
災害用として備蓄できない性質
車いすは本体そのものが大きく、平時の床面積を大きく占有してしまいます。また、価格が比較的高価である事などからも、災害用の備蓄には向かない製品です。こうした事情から、平時は施設来所者用に多くて2台程度が配備されている事が多い実情があります。
支援物資として優先されない事情
大規模災害発生時、まず必要なのは水、食料、衣類、生活必需品であり、支援はこれが優先になります。例えば支援団体がこういった物資を送る時、車いすは余ったスペースに積載する、もしくは積載しない選択を取る事があり得ます。車いす1台のスペースに食料段ボールを2ケース積んだほうが効率的ですのでこの選択は正しいと言えます。車いすの荷姿はいわゆるゲテモノであり、混載で積むには非常に積載効率が悪い事で、支援が後回しになっていきます。
車いすを集める問題点
災害が発生してから、皆様から現品でご支援頂いた場合、お願いから現品調達まで非常に長い時間を要する事になってしまいます。また、災害発生を前提に事前に集めておくには屋根付きの倉庫を無期限で借りる必要があり、これらは物理的にも経済的にも非効率であるといえます。
公共車いすの活用
ではどのようにまとまった数を集めるかが課題となりますが、公共車いすの余剰を、各自治体や社会福祉協議会から数台ずつ拠出頂き、100台規模を一挙に輸送するという方法が一番効率的であると言えます。自治体庁舎などには来所者用に2台以上、社会福祉協議会では市民貸出用に10台~100台規模の車いすが存在します。これら車いすのうち、平時の平均運用台数から余剰し、かつ業務に差し障りない程度の台数を拠出頂ければ、大規模災害発生時でも購入の必要なく、迅速にまとまった数の車いすを確保できます。
支援先と当事業の完了
当事業は車いすを集め、被災した道府県が指定する防災倉庫などへ輸送する事です。個別市町村、個別避難所までのお届けは想定していません。これは、土地勘のない他地域の団体が、被災混乱の中で複数の目的地を目指す事は困難であること、支援物資の割り振りなどは被災地団体のほうが遥かに効率よく行えるため、当法人が介入して場を混乱させる事は悪影響となる事が懸念されるためです。そのため、当事業は道府県が受領する事で完了となります。
事前協定の必要性
上記のように計画していても、例えば何の打ち合わせもないうちに大規模災害が発生し、車いすを集めようと奔走しても、各自治体や社会福祉協議会と事業の説明からはじめなければなりません。組織ですので、上長の了承を得る為に数週間かかる事も想定され、迅速な支援は実現不可能となります。そのため、平時の内から事前協定などを結び、いざ発生した際にスムーズな供出が可能となるように働きかけます。
事業の発動
全ての災害が当事業に当てはまる訳ではありません。例えば局地的豪雨などで河川氾濫などが起きた場合、広域に渡る災害には違いありませんが、当事業を発動するよりも近隣自治体で支援したほうがより効率的支援が可能と思われます。当事業は阪神淡路、東日本震災クラスの震災など、今後発生するであろう南海トラフ地震などに対して想定しており、当支援事業の発動契機は状況を見極めた上で、当法人にて決定します。ただし、被災自治体より要請があった場合などに備え、今後は当事業を2種以上に分け、より柔軟な対応が可能なようにしていきます。